父は盛って母と結婚した
今週のお題「盛り」
私の父は話をよく盛る。
それも現実的に考えてそんなわけないだろう、と簡単に気づいてしまうような盛り方を父はよくする。
「20代の頃、ナイフを持った集団と喧嘩になって一人で全員ボコボコにしたことがある。」
これくらいの話なら父親が子供にする話としてはありがちだろう。でもさすがに小学生の私でも、(ああ、また盛ってるな)と思いながら聞いていた。
「今はもう壊されちゃったけど、俺が育ったおじいちゃんの家の庭は広くて、庭で野球も50メートル走もできた。」
庭が広いのは信じるが、50メートル走ができたってことは、その広い庭は平らで何も置いていない、50メートルの直線が取れるシンプルな庭だったということか。
野球!野球となると、話を聴いて想像した庭に急に奥行きが出てきて、平らで、砂で、何も置いていない庭。横50メートル、奥行きは30メートルぐらいか?
そのおじいちゃんちは、都市開発で私が生まれる前に亡くなってしまったので今は確認のしようがない。本当にそんなに広い庭だったのか。まあ、盛ってるだろうけど。
「俺は中学校まで毎回テストは学年で1位だった。一回だけ2位を取って大泣きしたことがある。」
あ、盛ってるな。これを聞いた中学に入りたての頃の私はそう思ったが、もちろん父の威厳を保つためにそんなことは言わず、「へーそうなんだ、すごいね」と大人の対応をした。いや、13歳の息子に大人の対応をさせるな。私の勝手な予想だが、父のあの感じだと、100人中53位ぐらいな気がする。それで友人には「39位だったー、まあ今回は全然勉強しなかったからなあ」とか言ってたのだろう。53位のくせに。結構勉強したくせに。
母から聞いた父と母が結婚する前の話。
母が父と付き合い始めてから、当初聞いていた父に関する情報と異なることがいくつかあったらしい。
「身長173cm」
しかしある日、一緒に歩いていた170cmの友人よりも身長が何cmか小さいことに気づいてしまい発覚したらしい。母は165cmあるのに最初に気づけなかったのか。
身長はこの世で一番盛られてきた概念の一つであることは間違いないが、盛ってもバレないのは2~3cm程度だろう。5cmぐらい盛って交際相手がしばらく気づかなかったのは、靴の中に何か入れていたのか、母が鈍感かのどちらかだろう。
「K高校出身(県内3番目ぐらいの進学校)で、明治大学に行ける学力があったが行かなかった。」
学歴詐称はよくする人はいるが、いずれ100%バレるからあまりいいことはないのではないかと私は思うが、経歴詐称してた男と交際に発展してそれで結婚までするなんて母も母である。
「明治大学に行ける学力があった」は模試の成績表が残っていたりしない限り確認不可能だが、実際に父が通っていた高校から明治大学合格者が出れば大大大奇跡だから教師陣が放っておくわけがない。多分これも盛ってる、というか嘘であろう。
その他にも、腕時計の値段や乗ってる車の値段、年収など、さまざまな数値を盛って母と結婚までしてしまった父だが、それでも四半世紀うまくやってるということはそれなりの人を惹きつける魅力があるのだろう。
父のバレバレな話の盛り方には、家族も周りの人間も(ああ、またか...)と思ってしまうが、蛙の子は蛙、林檎は林檎の木に実る、筆者もかなり話を盛る癖がある。
この文章はできるだけ盛らないように書いたつもりだが、知らず知らずのうちに盛ってしまっているかもしれない。10分ぐらいでチャチャっと書いたので。